野党はTOC条約批准に反対していない

国際社会から強く加入を求められているTOC条約の批准に反対するのはおかしい、日本だけ国際的な捜査共助に参加できなくてもいいのか、という意見をよく見る。

国会の審議でもそのような発言を何度も聞いた。

 

しかし、共謀罪(テロ等準備罪)法案に反対している人々の多くはTOC条約条約の批准に反対していない。

 

少なくとも、民進党など野党や日弁連などは、条約の早期批准を求めている。

現行法のもとで批准ができるとするか、共謀罪(テロ等準備罪)法案を成立させないと批准ができないとするかで、意見が別れているのだ。また、条約批准のためといいつつ、法案の内容が条約の求めるところとずれていることも、野党が批判するところだ。

 

共謀罪を新設しないといけないとする根拠は、TOC条約第5条aで、(i)重大な犯罪の実行に合意すること(ii)

組織的犯罪集団に参加すること のいずれかを罪とするようにという規定があることだ。

ただ、この5条の解釈が割れている。

 

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が、この条約を各国で国内法制化する参考にするための「立法ガイド」というものを出している。そのパラグラフ51に、次のような記述がある。外務省による仮訳と、医学翻訳者の小林しおりさんによる翻訳とを下に並べた。赤字の部分が解釈の異なるところだ。

 

Article 5 of the Convention recognizes the two main approaches to such criminalization that are cited above as equivalent. The two alternative options of article 5, paragraph 1 (a) (i) and paragraph 1 (a) (ii) were thus created to reflect the fact that some countries have conspiracy laws, while others have criminal association (association de malfaiteurs) laws. The options allow for effective action against organized criminal groups, without requiring the introduction of either notion - conspiracy or criminal association - in States that do not have the relevant legal concept.

 

(外務省仮訳)

本条約第5条は、上記に同等のものとして引用されている犯罪化に対する2つの主要なアプローチを認めている。第5条1(a)(i)及び1(a)(ii)の2つの選択的なオプションは、このように、いくつかの国には共謀の法律があり、他方、他の国には犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律があるという事実を反映して設けられたものである。これらのオプションは、関連する法的概念を有していない国において、共謀又は犯罪の結社の概念のいずれかについてはその概念の導入を求めなくとも、組織的な犯罪集団に対する効果的な措置をとることを可能とするものである。

 

(小林しおりさん訳)

本条約第5条は、このような犯罪化に対する2つの主要なアプローチを同等のものと認めている。第5条1(a)(i)および(a)(ii)の2つの選択的なオプションは、このように、共謀の法律を有する諸国もあれば、犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律を有する諸国もあるという事実を反映するために設けられたものである。これらのオプションには、関連する法的な概念を持たない国が、共謀罪および結社罪のいずれの制度も導入することなしに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることを認める余地がある。

 

上の英文をすなおに読めば、文法的にも文脈的にも、小林しおりさん訳になると思う。

英語に詳しい人に聞くと、外務省の訳も文法的に決してありえないとまではいえないけれども、非常に無理のある読みだとのこと。また、文脈的にはおかしいということだった。

 

世界には、英米法系、大陸法系、イスラム法系、中国法系など、さまざまな法体系を持った国があるので、多くの国が条約に参加できるようにするためには、条約の目的を達成するために同じ効果を持つさまざまなオプションを認めることが必要だろう。そのことが、結果的に条約の効果を高めることにもなる。と思うと、パラグラフ51の読みは、自然な読み方のほうが妥当なのではないかと思う。

 

 

でも、外務省は、この文は、共謀罪も参加罪もない国が参加罪を選択した場合は共謀罪を選択しなくてもよく、共謀罪を選択したときは参加罪を選ばなくてもよいといっているのだと説明している。

そんなことをわざわざ立法ガイドに書くだろうかと思うのだけれど。

 

そして、外務省は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)に直接確認したら、「同パラグラフは共謀罪及び参加罪の双方とも必要でないことを意味するものではない」との回答を得ている、という。

 

そうすると「300もの罪についての共謀罪を新設しなければ条約は批准できない」という主張の根拠のひとつは、UNOCDからの回答にあるということになりそうだ。

 

でも「双方とも必要でないことを意味するものではない」という二重否定の訳のもとの英文はどうなっていたのだろうか?外務省による翻訳は適切なものだろうか?

”without〜either A or B” の翻訳で、無理をした翻訳をしていることを思うと、この説明をすなおに信じるのは難しいと感じる。

 

19日の法務委員会審議での維新の松浪健太議員の質疑の中で、この回答は口頭によるものだったと外務省がいっていることが明らかになった。

また、松浪議員はUNODCからの回答文書を示すよう、ずいぶん前に外務省に要請したのに、いまだに文書を得ていないこともわかった。

外務省は「所定の調整が完了しだい、お示しします」という答弁を繰り返した。

いったいどのような調整をするのだろうか。

                                         M.I,

 

追記:

法務委員会で質疑をした翌日、松浪議員には、UNODC からの回答の外務省仮訳の文書が届けられたということだ。英語正文も示されているのかどうか質疑からはよくわからなかった。

外務省水島官房審議官によれば、4月6日にUNODCに口上書で質問、11日に回答を得て日本語仮訳を作成し、その訳を慎重に検討したとのこと。委員会で読み上げられた仮訳は、19日に読み上げられたものと異なり、「締約国は重大な犯罪の合意罪かまたは組織的犯罪集団の活動への参加の2つのオプションのいずれかを選ぶことができるが、本規定の本質が義務的であることに変わりはなく、締約国はいずれかを選択しなければならない。また、締約国は、両方のオプションを選ぶこともできる」というものだった。

 

 

0 コメント

「テロリズム集団」という言葉はおかしい

あんまりばかばかしいから新聞もテレビも言わないのだろうか。

「テロリズム集団」という言葉はおかしい。

テロリズムは人ではない。主義、あるいは行為だ。「集団」にはなりえない。 

 

一般に「テロ集団」といえば「テロリスト集団」のことだろう。

ためしに検索してみても、この法案に触れているものの外は「テロリスト集団」という言葉が並ぶ。

英語で”terrorism groups”,とか"terrorism organizations"と検索しても、グーグルに"terrorist groups","terrorist organizations"と直されてしまう。

 

なんでこんなおかしな造語を法案に使ったのだろうか。

 

しかも、「テロリズム集団」という新たな言葉の定義も書かれていない。

 

こんな珍妙な言葉を定義もせずに使ったことに、どういう意図があるのだろう。

 

                                     M.I.

 

 

 

 

1 コメント

どうもわからない! いつ組織的な犯罪集団と認定されるのか?

過去の共謀罪法案と今国会に提出された法案でどこが違うのかを明らかにしようと具体的な事例をあれこれ考えていたら、壁にぶち当たってしまった。

 

今回は、新たな要件として「犯罪の実行準備行為」が加わり、犯罪の主体は単なる「団体」から「組織的な犯罪集団」になっている。

 

ここで、実行準備行為を考えるのはむずかしくない。

 

たとえば、購入したCDをコピーして友人に売る著作権法違反の場合、複数の人がその相談をして合意したあとで、仲間の一人が空CDを何枚か購入すれば、それが「実行準備行為」と認定される可能性がある。

 

でも、どうすれば、その団体が「組織的な犯罪集団」と認められるのか? 

いくら考えても具体的な状況が思い浮かばないのだ。

 

組織的な犯罪集団は繰り返し犯罪を実行するような団体だと法務大臣は答弁しているのだが、繰り返し犯罪を実行しているのがわかっているなら、その実行行為自体を摘発すればよい筈なので、その答弁を額面通りに受け取ることもむずかしい。

 

だとすれば、捜査当局は一体どのような場合に、一般の団体が組織的な犯罪集団に一変したと判断するのだろうか。

 

いくら考えてもわからない!

 

(K.I)

 


0 コメント

除外された罪、やっぱりおかしい、とってもおかしい・・

前のブログ記事を書いて、当初共謀罪の対象だった676の罪から抜いた399罪を検討しようとおもい、まず刑法からとりかかった。

 

「過失、未遂、準備罪、予備罪、陰謀罪や共謀罪のあるもの」はひとめで明らかだし、「結果的加重犯」もほぼわかるので、そういうものを抜いてにしてみた。

 

あれ??

 

やっぱりおかしい・・・。

 

 1.「殺人」「詐欺」「恐喝」などは、「加重類型」でも「組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的に想定し難い犯罪」でもないのに、対象から除外されている。

(加重類型:犯罪を実行する人の身分や犯罪実行の目的などによって、同じ犯罪を犯しても罰を特別に重くするもの) 

 

2.「看守者等による逃走援助」「税関職員によるあへん煙輸入等」「虚偽鑑定等」「虚偽告訴等」「特別公務員職権濫用」「特別公務員暴行陵虐」「公用文書毀棄」など、特別な地位にある公務員がかかわると思われる重大な犯罪が軒並み対象から除外されている。

 

 

このうち、1については、組織犯罪処罰法第3条の「組織的な殺人等」を対象犯罪としたから除外したのだということがわかった。

この理由で除外したのがあきらかなのは7つ。

 

つまり、加重類型の「組織的な殺人」を対象犯罪にし、その土台の「殺人」(加重類型でない)のほうを除外したわけだ。「殺人」を対象にすれば「組織的な殺人」も自動的に対象になるのに、わざわざこんなことをしたのには、もちろん、わけがある。表むきのわけと、そうでないものと。でも、それについては、長くなるのでまたあとで。

 

2のうち「看守者等による逃走援助」は、法務省の説明では「組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的に想定し難い犯罪」の例に入れられている。

 

 特別な地位にある公務員がかかわる犯罪については、「組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的に想定し難い犯罪」とすることにしたのだろうか。

 

もしそうだとしたら、それはなぜだろう。

 

看守や警察官や検察や裁判官や公用文書を扱う公務員は、法案でいう「組織的犯罪集団」になることはありえないということなのだろうか。

 

 

 

それとも・・・

 

この件、どうもすっきりしないので、もう少し考えてみたい。

 

  

 

 

除外された罪、なんだかおかしい、とってもおかしい・・・

共謀罪の対象となる277の犯罪リストをチェックしていて、公職選挙法も政治資金規正法もすっぽり抜けていることに気づいた。

あれ?・・・


ひょっとして、政治家は対象から抜くということ?

気になって刑法をみてみると、特別公務員職権濫用罪(194条)や特別公務員暴行陵辱罪(195条)も対象から抜けている。

特別公務員職権濫用罪は、裁判官や検察官や警察官が、職権を濫用して、人を逮捕したり監禁するという罪。6ヶ月以上10年以下の懲役か禁錮。

特別公務員暴行陵辱罪は、裁判官や検察官や警察官が、職務を行うときに、被告人や被疑者その他の者に対して暴行や陵辱、加虐の行為をするという罪。7年以下の懲役か禁錮。

どちらもとても重い罪だ。もしこんなことが起きたら、社会に与える影響もとても大きい。

対象犯罪に入っている「著作権法違反」とか「組織的な威力業務妨害」などとは比べ物にならない重い罪だ。

裁判官や検察官や警察官のグループが、組織的犯罪集団に一変するなんてことは想定できませんっ! 

てことなのだろうか?

なんだかおかしい、とってもおかしい・・・。

そこで、どんな罪が除外されたのか、調べてみることにした。

まず手始めに刑法から・・

 

追記:

「陵虐」(陵辱・加虐)ってなんだろうと思って『法律用語辞典』をみたら、

「暴行以外の方法によって精神的又は身体的に苦痛を与える行為。相当の飲食物を与えない、睡眠を妨げる、全裸にして羞恥心を抱かせる等。」とあった。

  

これを対象から抜くなんて、ちょっとひどくないですか?